謝辞
令和4年11月29日に「【第02回】名興文庫−漆黒の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!
企画詳細
「【第02回】名興文庫−漆黒の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら
【求める作品】
「ハイ・ファンタジー作品」
・本来のハイ・ファンタジー小説を構成する能力を問い、またその力の高い作品及び作者を見出す趣旨の企画です。
【条件】
・文字数無制限(ある程度詳細に把握できるところまで読み込みます)
・長文タイトルでないこと
・ゲーム要素及びそれに寄せ過ぎた作品でないこと
・現代ファンタジーでないこと
・いわゆる『なろうテンプレ作品』でないこと
・無料公開中の作品であること
【ルール】
・作品のURLをリプライ願います
・上限は5作品です(募集をかけている時は随時告知いたします)
総括
この度は【第02回】名興文庫−漆黒の作品選評『ハイ・ファンタジー作品』へのご応募ありがとうございました。
さて、今回の総評となりますが、『読者・消費者を意識した作品構成が出来ているか?』という視点をもう少し意識した方が良いと思われる作品が多い印象でした。
書いていて作者が楽しい物語と、読者が楽しいと感じる、または売れる、物語はしばしば合致しがたいものです。今回の企画に参加した方のみならず、『第三者がこの作品を読んで楽しいのか?』、『どのような読者層を想定しているのか?』、『商品としての価値はどれくらいあるのか?』などの視点は常に持つべきでしょう。『商品として書く』、『プロとして在る』とはこの必然を常に抱えて物語を書く事を意味しています。
このような意味まで踏まえて、今回際立って完成度が高かったのは『火刑台で竜に捧げる歌』でしょう。短編でありながら総合的なバランスが高い上に意外性もあり、秀逸な作品でした。
各作品、高い地力や構成力を感じさせ、光る部分がありますので、あとは素材をどのような方向に導くのか、今後の創作の一助としていただければ幸いです。
読了後の感想・評価
ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
*敬称略とさせていただきます。
『天城ミコト修行中!』|倉名まさ
*感想・批評希望
【感想】
和風ファンタジーですが広義のハイ・ファンタジーとして読ませていただきました。ほぼライトノベル一冊分の文字数の中でしっかり完結していますが、この物語の秀逸な部分は、作中世界にこの物語の世界観と合う知識や名称の引用が為されている事でしょう(具体的には『ゴトビキ岩』など)。これが、『古代日本モチーフのファンタジー』として読み続けたい読者に作者のインプットを示唆しており、読み続けるモチベーションの担保として機能しています。しっかり文字数内で完結できる構成力も評価できます。
【批評】
伸びしろを非常に感じさせる作者さんで、まだまだ腕が上がる雰囲気が全般的に漂っています。会話やキャラクターを立てる事がしっかりできていますし、戦闘シーンも分かりやすく熱くてセンスがあります。何より、『その作品を好むであろう読者に向けた細部の作り込み』ができるのは強いです。
一方で、『亡国記』になる部分は視点がいきなり変わっているため、もう少し入りやすくするための情報の提示があった方が良いかもしれません。
また、地の文が~た、~だった、で途切れている事が多いため、これらを何文節か繋げて流れのある塊にしていく意識を持つと良いでしょう。これは、それが出来ている作品を読んで意識して寄せていけば比較的早く身に付くと思われます。
世界観や設定については、現実世界の知識の引用が生きている分、この世界の表現はもっとあっても良いと思えました。読んで明確にイメージできる部分と、ぼんやりしている部分の落差がまだ大きい、という事です。しかし、これは幾らでも磨けるのでより高みを目指して頑張ってほしい所です。
なお、見方を変えるとこの物語は児童文学寄りとしては完成度が高い所があります。変に過激な表現が無く空気が一貫しているのと、地の文の部分がかえって読みやすいのです。場合によっては想定読者層を変える事も可能でしょう。
今後の創作活動を応援いたします。
封印されし異形から人の世を救うべく宿命づけられた少女を主役とする和風ファンタジー。旅立ちの第一話を読了。
テンポよく筋を追っていけば、登場人物の表情が見えるやりとりで、古風な名前にも違和感を感じることなく、世界観に浸ることができた。それなりのボリュームを一気に読んでストレスを感じないのには、作者の巧みなストーリーテラーぶりがよく分かる。
あらすじに「なんちゃって世界観」との謙遜があったが、これは例えば服飾や建造物の細部を書き込むことで、完全に霧消するものと感じる。
また、臨場感あふれる戦闘や試練が描かれていても、夢にうなされるほどの過激表現はなく、主人公と同じ年頃の少年少女にもお勧めしたい。
続く主人公の旅路も楽しませてもらおうと思う。
第二話まで読ませていただきました。人里離れた神殿で一人前の巫女となるべく育てられた天城ミコト。そんな彼女の旅の物語。薄明の巫女と信じてミコトにすべてを託す神殿の人々や、ミコトに希望を見出す人物の視線。使命に重荷を感じてもおかしくない状況ですが、持ち前の元気いっぱいの言動で乗り越える姿に、どんなに過酷な状況でも希望はある、と思わせてくれる。とても読みやすく、楽しかったです。
気になったのは、物語の設定です。この世界の巫女とはどのような存在なのか、鬼・鬼術・妖気とは何なのか、霊力・霊術とは何か、などの情報が提示されないまま物語が進行しています。そのため、どの程度絶望的な状況なのか、わかりづらかったです。
『異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし』|芝大樹
*感想・批評希望
【感想】
異世界に転移させられた一家の物語。世界の命運に大きく関わっていくが、まずそれ以前に現実的に異世界に足場を作っていく過程が丁寧に描かれて行きます。『大草原の小さな家』の異世界転移、戦記の要素有りの物語と言えるでしょうか。
【批評】
丁寧な描写と安定した文章力に、異世界を描写する設定力もありますが、平坦な描写が続いて突出した部分が無いために大きく損をしている印象です。地味な作業も世界の設定も、そこに読者の『驚』が入れば途端に引き付けるものに変わります。
映画などが顕著ですが、地味なシーンは必ずその後にイベントが待っているものです。これを意識して常に大小の『驚』を込める事と、地の文の情景描写の形容をもう少し色彩や表情豊かなものにする事を心がけるといいでしょう。また、地の文が~た、で終わるのも平坦さに拍車をかけています。
これは地の文が長めでも途切れない表情豊かな作品を何作か読んで真似してみるだけでもだいぶ変わって来ます。それだけで、この作品の世界はだいぶ生き生きとしたものになるでしょう。
異世界の設定において、細部全てを詳細に見せるのは大変なことですが、自分の表現したい、強調したい部分は必ずあるはずですから、そのような部分に沿う設定面を詳細にするだけでもだいぶ印象は違うものです。
例えば、この作中世界は水道はほぼ普及していませんが石鹸はあります。しかし、原始的でない石鹸を庶民が使うくらいに普及させるにはそれなりに工業力や流通力、または石鹸が必要になる強い文化的背景などが必須になって来ます。このような細部の整合性を取ろうとすることで面白い設定の必然性が生まれたりしますので、ぜひ豊かな世界の構築を続けてください。
非常に各所が惜しい作品ですが、そのぶん容易に伸びる部分も多い作者さんだと思いますので、楽しみつつ研鑽をなさってください。
今後の創作活動を応援いたします。
序章・第一章を読ませていただきました。突然異世界に転移させられてしまった家族が、そこでの生活や人間関係に戸惑いながらも馴染もうと努力する物語。序章からして、悲劇が待ち受けているのでしょうか。ひとつひとつの事象を丁寧に描こうとされているのが伝わってきます。
気になったのは、ハルヒコたち家族のことです。彼らはどういった経緯で転移したのでしょうか? ハルヒコは転移する前、どのような経験を積んだのでしょうか? とっかかりがなくて感情移入しづらかったです。
『火刑台で竜に捧げる歌』|天野つばめ
*感想・批評希望
【感想】
とても完成度の高い作品。短い文字数からしっかりハイ・ファンタジーの物語が出来上がっており、広さを感じさせる異世界の幻想美と、現実の延長でもある人間の残酷さの対比性に、さらに一ひねりくわえた予想外に美しい結末という、とても豊かなファンタジーの読書体験ができる作品でした。
【批評】
完成度が高いため、あまり言う事はありません。途中で回想などに切り替わるシーン等がややわかりづらい点があり、そのような部分を少しわかりやすく示せれば何の問題もないでしょう。秀逸な作品です。
今後の創作活動を応援いたします。
異端の魔女として生まれ育った姉妹の短編作品。
透明な空気感に包まれた語りで、ふたりが伝承の楽園へと旅立つまでを物語る。
筋だけを追うのも、ふたりの愛情深い暮らしにホッコリしたり、危機に際してハラハラしたりと充分に楽しめる。しかしここはひとつ、行間を読んでいきたい。
『語られていない雄弁な物語を楽しむ』。これこそが、楽しい。
これこそが、良作の証だとしみじみ思う。
魔女は竜に歌を捧げ、運命の竜は魔女を迎えに来た後、空の楽園タイヴァスへと誘う世界の物語。7000字に満たない短編小説ながら、そこに描かれる文化・宗教・伝承が色鮮やかで、魔女の歌が聞こえてくるような魅力に溢れていました。
ほんの少し気になったのは物語の前半です。魔女の存在、エリザとライカの関係、二人の過去、母親について、母親が過去に育てた子供について、母親の死、花嫁さん。時系列が入り乱れているため、読んでいて少し混乱しました。情報提示の順番を整理されたら、もっと素敵になると思います。
『紫黒の乙女 -転生のおと外典-』|津多 時ロウ
*感想希望
時に美しい武器と力の顕現する世界での物語。闇が具現化したような獣たちと、独特な能力によって出現する薄い翅のような刃での戦いは、主人公の人柄や作中世界の雰囲気や回想と相まって美しく、十万字と少しで綺麗にまとまっている物語です。
独特な設定を主人公の特徴的な武器として効果的に演出して、敵の『ケモノ』たちの哀しい恐ろしさとよく合う物語世界が展開しています。
何か付け足すなら、冒頭の情景描写の『中世ヨーロッパのような』の部分や、ドイツ語由来の表現とメートル法、この辺りを一定の雰囲気に寄せればより輝く作品だと思います。
一定以上の読ませる力のある作品でした。
今後の創作活動を応援いたします。
数世紀前のドイツを思わせる地を舞台に、不思議な術を持って異形と相対する少女の物語。その第一章を読了。
一章は主人公が異形を察知する能力に目覚め、剣術の師であり主人公と同様の視る力を持つ叔母に導かれて成長する。この叔母の人物像造形がとても魅力的だ。見守り導き助言を与える姿に、理想の教師像を思わせる。また、無から有を生み出すがごとき専用武器の生成の過程が、具体的に詳述されていること。一歩間違えば陳腐になりかねないこの手の武器を、目の前に像を結ぶかのように描いており、絵心もある作家なのだろうと思わせる。
迷いなく地に足がついた描写の一方で、惜しいことに言葉選びが上滑りしたと思われる箇所がわずかに引っかかりを残した。
とは言え、どうにも心地よい重みを感じるこの作品。時間をとって次章以降も読みすすめたい。
第二章まで読ませていただきました。主人公アルマが目にした黒い靄は、ヒトの世を破壊する災厄。それを排除するため、還魄器を扱い、戦う物語。心をキーワードに発展させた設定が面白く、黒い靄に立ち向かうアルマの姿がカッコよかったです。
『鐵鞭の女王蜂』|かぶき六號
*感想・批評希望
【感想】
転生要素のある、大河形式かつホームドラマ要素も強いファンタジー。作者さんの経験やインプット、好きなものが濃縮された雰囲気が漂っていますが、これに厚みがあるのと基本的な文章力が高いため、つまずきが無く読み続けられます。細部まで良く練ってある設定と異世界も破綻なくしっかりしたものです。
【批評】
『何をもってして読者に楽しんでもらうか?』という部分よりも、『作者が表現したい気持ち』のほうがかなり強い印象を受けます。それでもこだわった設定と安定した文章力である程度読ませてしまう力は大したものですが、それだけに情報を出すタイミング、量、読者に期待感を持って読み進めてもらうためのフックのバランスはまだ相当に煮詰められる作品と感じました。
例えば冒頭のファンタジーよりはSFである設定と仕組み部分の情報量が非常に多いですが、この情報の伏線は回収されるとしても相当後のはずですから、最初にここまで出さないほうが物語に入りやすく、またひきつけやすいでしょう。
よくできた物語はこの情報の量と出すタイミングの管理が非常に優れていますので、この部分に留意されると良いと思われます。
同様に、本文に対してあらすじと後書きの情報の比重が大きめな部分も調整し、大河形式なので段階的に出していけばよいかと思います。
また、スタート時点で主人公が赤子で、しかも大河形式ですから展開はそこまで早くならないと予測がつきます。この場合、あらすじに強力なフックを設けたり、毎話何らかの驚きを読者に与えるのも大切なことです。
他には初期ライトノベルにあった当て字系のルビでしょうか。これは比較的読者を限定しがちな特徴があります。世界観の作り込みと情報が多い、しっかりめのファンタジー世界でこの表現方法は相性が難しい面がありますので、ここは作者さんの理想形と良くバランスを考慮してみた方が良いかもしれません。
このようなバランス調節は総括の視点を心がければ見えてくると思いますので、より評価の高い状態を目指すのであれば思考の一助にしていただければと思います。
今後の創作活動を応援いたします。
「産まれ落ちる英雄の子」まで読ませていただきました。「世界間魂情報移行」に不具合が生じたため、女神による神託を受けることになったリーアン。そこから起こる騒動と、対応する人々の姿。リーアンの成長を全力で応援しようと頑張る周囲の大人たち。彼らの四苦八苦する様子が微笑ましいです。ひとつひとつの事柄を丁寧に、穏やかに、温かい眼差しで描かれていて、気持ちがほっこりしました。また、作者さんの実体験(仕事・家庭)が色濃く反映されていて楽しかったです。
気になったのは、モンやマギなどの登場人物が一際輝いていて、リーアンの両親であるクレイグとディアンネの存在感が薄くなっていることです。リーアンと過ごす日々やリーアンを気にかける描写が増えれば、より深い家族の絆を描け、温かみが増すと思います。
今後の予定
前回に引き続き、今回も先着5作品の枠が早々に埋まりました。
ご協力くださり、誠にありがとうございます。
今回応募された作品の内、『紫黒の乙女 -転生のおと外典-』は批評の有無について言及がなかったため、感想のみとさせていただいています。
もし批評をご希望の場合、12月31日までに名興文庫公式Twitter「【第02回】漆黒の作品選評企画の総括」のブログ記事ツイートに作者様からコメントを頂けたら対応したいと思います。
参加できなかった方は申し訳ありませんでした。
またの機会をお待ちいただければ幸いです。