『【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト』を開催するにあたり

漆黒

 2025年の幕開けとなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この度、名興文庫の初めての公募企画『【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト』を開催するにあたり、その趣旨と補足をご説明いたします。

 まず、本企画の背景にある前提についてお話しします。ファンタジーというジャンルは、ライトノベルの隆盛からWeb小説が主流となった現在に至るまで、もともとその中核をなす美しく広大な幻想性が大衆向け作品から次第に乖離してきた状況にあります。この幻想性を再評価し、作品の本質として取り戻すことが、私たちの目的の一つです。

 現在、小説界隈では「異世界ファンタジー」というジャンル名でその特性を区別しようと試みていますが、実際にはこの名称が誤解を生むことも少なくありません。また、その定義が曖昧であるため、書き手や読み手の双方に不親切な状況を生んでいます。名興文庫では、こうした状況を踏まえ、今後も私たちの解釈を明確にしながら発信していく所存です。

 さて、今回の公募の趣旨についてお話しいたします。ライトノベルやWeb小説としての「異世界ファンタジー」の流れに対して、伝統的なファンタジーを愛する作家が今後何を目指すべきか。その解の一つとして、短い文章で美しく広大な幻想物語を数多く収録した作品集を提案します。宝箱の中に詰まった宝石のような短編小説を集めた書籍を想像してください。それぞれの作品が宝石のようにきらめき、その輝きを透かすと異なる世界が広がる──そのような読書体験を目指しています。

 近年、Web小説の普及により、表層的な面白さや瞬発力が重視されています。しかし、それらは漫画などの他メディアと競合しやすく、小説本来の強みを見失いがちです。小説の持つ普遍的で原初的なインタラクティブ性を再認識し、特に幻想性という分野で作家の想像力と創造性が試されることを大切にしたいと考えています。この企画を通じて、作家としての挑戦や幻想性の再確認の場として、多くの方々にご応募いただければ幸いです。

参考書籍

 今年は奇しくも、幻想小説の大家ロード・ダンセイニ(ダンセイニ卿)が処女作『ペガーナの神々』を自費出版してから120周年にあたります。ダンセイニ卿は、H.P.ラヴクラフトや日本の荒俣宏氏をはじめ、多くの作家に多大な影響を与えた偉大な幻想作家です。今回のコンテストにおいても、ダンセイニ卿の短編作品、特に『ペガーナの神々』や『妖精族のむすめ』は最も参考となるでしょう。

 また、岩波文庫などの世界各国の名詩選、特にイギリスやドイツの古典作品も大いに参考になります。一冊の書籍としての読書体験においては、カール・ヒルティの名著『眠られぬ夜のために』のような方向性をイメージしていただけると理想的ですが、激しい戦い、大いなる戦争や終焉の物語でもこのような方向性を持たせられる事に留意してほしいと思います。