謝辞
令和4年12月13日から「【第01回】名興文庫−漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評」企画を開催しています。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!
今回、募集枠30作品の内、5作品の応募がありましたので、感想・批評を公開します。
皆様の創作の一助になれば幸いです。
*【第01回】漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評企画の総括(2)はこちら
*【第01回】漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評企画の総括(3)はこちら
企画詳細
「【第01回】名興文庫−漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら
【求める作品】
「幻想・ファンタジー短編」
・多種多様な表現を用いた短編でファンタジー及び幻想小説を構成・執筆する能力を問い、またその力の高い作品及び作者を見出す趣旨の企画です。
【条件】
・1作品につき2万字以下
・現代社会を舞台にしないこと
・無料公開中の作品であること
・伝統的なファンタジーの文脈に則っていること
【ルール】
・ブログの条件を熟読の上、応募してください
・作品のURLをリプライ願います
・一人の作者で3作品まで応募可能です
・今回は『わずかに批評の含まれる感想のみ』となります
・合計30作品の時点で応募終了となります
読了後の感想・批評
ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想・批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
*敬称略とさせていただきます。
『詐欺師がついた最後の嘘』|はなまる
一話、約二千字の短編です。してはならない事に対する因果応報の教訓を孕みながらも、その中で展開する人間の善性が描かれており、悲劇的な結末に感じさせない構成は見事なものです。この物語も、児童書や創作民話としてとても完成度が高いです。
3作品の中で一番好みな作品。3作品を読んで思ったのはレーベル-檸檬-が求める内容を意識すれば檸檬ブランドで出版できるように感じました。
淡々とすすむ説話風の短編小説だ。説話・童話を舐めてはいけない。短い中にぎゅっと中身が詰まり、聞いて面白く、人に伝えたくなる。我が子にまでも。エンターテイメント性と教訓がバランスよく同居しなければ、説話とは呼べないのだ。
この作品は文章も良い。リズムがある。流れがあって心地よい。そして安定感がある。
漆黒ファンタジーにて応募を受けたことに嫉妬すら覚える。
今後のご活躍を心より祈念申しあげる。
碌でなし詐欺師のザンギが人生最後についた嘘。それを口にすれば鬼の餌になる恐怖から、ザンギは口をつぐんでいたけれど──。嘘をついてはいけないという教訓から、ザンギという男の一生を描いていて、面白かったです。
文章量を増やすこともできそうですが、このくらいスッキリしているのも魅力的。ただ、強烈なオリジナリティを出そうとすれば、もう少し細部を細かく描写しても良いのかもしれません。
『【夏っぽい短編シリーズ】其ノ四 ととさまのしっぽ』|はなまる
一話、約三千字の短編ですが、家族愛と関係性、そして夏の風物詩である花火が綺麗に関連して構成されています。会話と情景の描写の一つ一つが必要にして過分ではないため、文字数に対して満足感の高い作品となっています。児童書や創作民話として良質であり、こちらも完成度の高い短編でした。
ファンタジーなヒューマンドラマな作品。児童文学でも通じるのでジャンルを超えて良くできていると思います。
両親を失った半妖ユズが仙狐の婆さまと過ごす日々を描いた物語。自分の存在が婆さまの邪魔になっているのではないかと気遣うユズが、読んでいて愛おしく思いました。
もし可能なら、父さまの職業を伏線的に活かせたら、と思います。そうすればもっと素敵になると思います。
『森小鬼のラダとルダ』|はなまる
三話、四千字と少しで綺麗にまとまっています。会話が多く読みやすいため、児童書として読めますが、内容には『人間と自然の関係』、『妖精的存在の零落』がしっかり描かれており、良質な物語の条件の一つ、『テーマの多層性』がしっかりと構成されています。
読みやすく優しい話ながら、完成度の高い短編だと思いました。
手を加えたら良くなると感じた作品。少し主人公たちをスポットして物語を広めても良いかと思います。
森を守ろうとする森小鬼のラダとルダの物語。人間による森林破壊がテーマでありながら、残酷に彩られているわけではなく、教訓のようなテイストにまとめられていて、読みやすく後味が良かったです。また、ここからさらに冒険が始まる予感もあり、ときめきました。
気になったのは、あらすじが雑なところです。「雑魚キャラ」は可哀想。
『宵闇の壺』|倉名まさ
一話、約一万五千字。おそらくスペイン、ポルトガル地方をモチーフとしたファンタジー世界で展開する、叙事詩の断片的な物語。祭りのシーンからその中心人物である伝説の女傑の物語が展開していきますが、広い作中世界から重要な部分のみを切り出したように濃厚な物語が展開していき、見ごたえのあるシーンも幾つかしっかりと詰め込まれ、作中世界の広さの余韻と謎を残して終幕します。
比較的、短い地の文が連続する作者さんの特徴が出ていますが、ここまで構成できるのであれば、『リズムのある塊としての地の文』を意図的に書こうとしてみるとさらに格式や雰囲気は増すでしょう。
また、時々会話文の軽さや使われる語彙(ギブ&テイクなど)は、しばしばそれまでの雰囲気を変えてしまう事があるので、彫刻の最後の粗を取るような心持で雰囲気の調整をした方が良いかもしれません。
とはいえ、これらはあくまでも贅沢な提言です。完成度の高い物語でした。
チグハグな印象を抱く作品。冒頭は詩人が謳う物語なのに文末が物語の主人公視点で終えているのが残念…
祭りの夜、吟遊詩人の語る英雄譚に聴衆が思いを馳せる──
そんな出だしは、闇夜の松明のように物語の輪郭を浮かび上がらせ、また読み手をその輪の中に自然と加えるような親しみと熱量がある。
舞台装置がギュッと圧縮された密度の濃い作品だ。その中を主人公に先導されて旅をすれば、焦燥に駆られて冒険の地に赴き、出会い、戦い、辿り着いたその先に待ち受けるものは──。
かがり火の向こうに見え隠れする英雄伝説を、話中の聞き手と一緒に楽しむ夜。受け取手のイマジネーションが話の価値を左右するかも知れない。そんな自由を感じる。
だが、私にはそれがよい。自ら飛び込んでいきたくなる、続きに思いを馳せる。そんな逸品だ。
バレンティオの火祭りで吟遊詩人が語った物語は、戦乙女聖テレジアが宵闇の壷を求め白魔の山を攻略する物語。テレジアの真っ直ぐな性格が困難な道を切り開く物語展開に、読んでいてドキドキしました。
全体的に場面転換が多く、白魔の山に振り回されているのが伝わってきました。ただ、それが活かしきれていない気がします。場面転換が起きた場面をもう少し丁寧に描写されたら、より魅力的になると思います。
『竜と盲目の少女』|飯塚ヒロアキ
三話、六千字で綺麗にまとまっているファンタジー。ある伝説と、その顛末が語られている。ファンタジーの短編としてこの文字数でまとまっているのは一定以上の構成力のある証であり、同時に、まだまだ洗練できる作品であり、伸びしろの大きい作家さんでもあるという印象を受けました。
短編は文字数が限られている分、一言一句が与える影響はとても大きくなります。この作品においては二点、気になる部分があります。作中の『バイキング』がこの世界が我々の世界の延長なのか? または海洋からの略奪行為を行う民族をそう呼んでいるのか? が気になります。次に『ロングヘア』でしょう。ファンタジーの短編は大抵、詩的成分を帯びてきます。ヒロインの髪の描写はこれに大きく影響を与えられるので、より洗練できる部分です。このような細部の凝縮が短編の完成度を左右しますので、ぜひ今後も研鑽を積まれ、またご参加ください。
ファンタジー世界でのヒューマンドラマな作品。ほっこりするお話でした。欲を言えばもう少し物語が続けばと思います。
竜の存在を信じる盲目の少女。森の中で彼女が歌う声に惹かれて、一人の少年がやってくるところから始まる物語。壮大な冒険譚が始まる序章に、今後の展開を想像してワクワクしました。
ちょっと気になったのは、『レオヴァル』様の名前が出るタイミングです。第一話の段階から名前が出ていたら、伏線が活きてくるのではないかな、と思います。
今後の予定
企画にご協力くださり、誠にありがとうございます。
枠はまだ空いておりますので、皆様のご参加を心待ちにしています。
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