【第01回】漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評企画の総括（2）

　本編を読んでいるとより楽しめますが、読んでいなくても楽しめる、非常に完成度の高い物語。奇妙な出会いと友情の果てに、謎と共に残った回収されない『名前』。ファンタジー本来の『異なる世界の息遣い』を感じつつ、短い旅を見届け、また終えられるのはなかなかに幸福な読書体験でした。
　今回、残念ながら文字数が若干オーバーしておりましたが、完成度が高いため掲載いたします。
　今後の創作活動も応援しています。

　ヒュラエズが手繰り寄せた手漕ぎ船に乗っていたアネイリン。タントアムまでの道のりを二人で旅する短編小説。膨大な設定から浮かび上がる世界で二人がかけがえのない友情を静かにはぐくむ物語に、ただただ惹き込まれました。この豊かさはファンタジーでないと表現できないものだと思います。ただ残念なのが、文字数オーバーしています（読了後に気づきました）。次回は応募規約をご確認の上、参加していただけると幸いです。

『伝統的なファンタジーの文脈』からはかなり外れていますが、キャラクターの立ち方、テンポ等をライトノベル的に評価するなら一定の水準には達しています。
　短編としてしっかり完結していますが、会話文と地の文のバランス、見せたい部分の構成などはまだまだ練り上げられる印象です。ファンタジーに限らずとも、完成度の高い短編はかなりwebにも存在していますし、市販の短編集などでも良いですが、一定数を読み込めば、更にバランスの良い構成がまた見えてくると思います。

　今後の創作活動も応援しています。

　遺物に取り憑いている「ある」者を消去し「取り憑かれている遺物」を「通常の遺物」に戻すイレイサー。その仕事を行うハルキとニッタの物語。ハルキの口調やニッタとのバディ、動き出したミイラとの戦闘を楽しく読ませていただきました。ただ、本作は伝統的なファンタジーの文脈に則っていない、ライトノベル的な作品だと思います。

　伝統的なファンタジーの短編ではなくライトノベルですが、わがまま奔放で魅力的な魔女メイリーンと、幼馴染で護衛を務めるレイモンドの日常を切り出したような物語。
　バランスの良い会話と展開で軽快に読み進められるため、一定以上の水準には達しています。ただ一方、こちらも非常に良くあるモチーフですから、だからこそ工夫が問われる物でもあります。読者を『他の物語と違う！』と思わせられる何かを心がけるといいでしょう。

　今後の創作活動も応援しています。

　自由奔放な魔女メイリーンに振り回される幼馴染レイモンド。ある日の二人を描いた短編小説。二人の関係がコミカルに描かれていて、さらっと読むことができました。メイリーンの自由気ままさが可愛らしいです。ですが、本作は伝統的なファンタジーの文脈に則っていない、ライトノベル的な作品だと思います。

　伝統的なファンタジーの短編ではなくライトノベルですが、武装したメイドという定番のアイコンでありながら、しっかりした戦闘シーンと軽妙な会話が流れていくためスムーズに読み終えられます。
　一方で、一定水準には達していますがモチーフが定番であるため、意外性や驚き、強烈なキャラクター性など、強いエッジかフック、出来れば両方が必要かなとも思われました。

　今後の創作活動も応援しています。

　エルデル家の当主が死亡し、子供のアレクが次期当主として引き継いだ。そこが狙い目とばかりに盗賊が押し入ったが、エルデル家に仕えるメイドは特殊であり──。圧倒的な強さで盗賊を排除していくメイドたちの描写がテンポよく、あっという間に読めました。ただ、本作は伝統的なファンタジーの文脈に則っていない、ライトノベル的な作品だと思います。

　和風ですが、しっかりとファンタジーの文脈で構成された物語です。物悲しさのある物語ですが、定命の者とそうでない者との信頼とその終焉までが描かれていく中で、軽い作品では容易く無視されがちな断絶と、それを超えた関係性が見事に語られています。

　哀しくも腑に落ちる物語なのは、このテーマが明確であるからでしょう。とても良い作品でした。

　今後の創作活動も応援しています。

　蛇神として祀られている男の元に向かう少女・シマ。男の容姿は白銀色の髪、赤い瞳、青白い皮膚。人とは違う姿にシマは怯えることなく生贄になることを願う。けれど男はシマを食べるのではなく……。二人が迎えた結末に切なくなりました。悲しいけれど、きっとこれでよかったのだと思いたいです。