謝辞
令和4年11月1日〜12月1日にかけて「【第01回】名興文庫-漆黒の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!
企画詳細
「【第01回】名興文庫-漆黒の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら
【求める作品】
「世界がしっかりとしたファンタジー」
・今回はなるべく、世界観や設定がしっかりしている作品が望ましいです。
【条件】
・文字数無制限
・長文タイトルでないこと
・ゲーム要素がないこと
・無料公開中の作品であること
・異世界ファンタジーであること
【ルール】
・作品のURLをリプライ願います。
・期限は2022/12/01まで
・先着10作品まで
総括
この度は【第01回】名興文庫-漆黒の作品選評「世界がしっかりしたファンタジー」へのご応募ありがとうございました。
文字数制限のない、しかしここしばらくの風潮に在ってはなかなかに少数派になりつつあるレギュレーションにもかかわらず、すぐに規定作品数を満たしたのは喜ばしい事です。
さて、今回の総評となりますが、「世界がしっかりしたファンタジー」というテーマに沿っての傾向から述べさせていただくなら、ほとんどの作品は及第点を超えており、全般的に読み応えのある作品が多かった印象です。
キャラクター性や共感性による読者獲得を第一のロジックとするライトノベルにおいて、ファンタジーの『世界』はともすれば軽視されることも多い中、この部分をしっかり描写できる書き手と、そのように書かれた物語は価値の高いものなのです。これは、ファンタジーにおける世界設定・世界観とは、例えるならば『孤掌鳴らし難し』、つまり拍手は片手ではできないように不可分であり、双方同期してこそ良い物語が動くという原則があるからです。
その上で、特に高いレベルでこれらが表現され、キャラクターと噛み合っていたのは『異端者幻想譚 -ヘレティックファンタジー-』でしょう。独自性も高く『ファンタジー小説』としても成り立つ完成度です。
また、『竜の階』はキャラクター目線の他に別に、作中世界を想像して楽しませる仕掛けがある事で読者の期待値を高める事が出来ています。これくらいの作り込みが為されていれば、作中世界で派生する様々な物語も延々と組めるかもしれません。
『マリアベルの迷宮』は、オペラのように色彩豊かです。これは批評のほうでも述べた工夫でさらに細やかに美しくなると思います。『迷宮』展開後になされる心理描写は特筆できる複雑な魅力がありますので『レースの柄を時に描写する』ような感覚を持たれるとより引力が増すかもしれません。
『アメジストの軌跡』は、『ファンタジー設定である魔法の存在するSF』という、ともすれば陳腐になりがちな設定を、全くそう見せないで読ませ続けられるだけの設定力と、何よりキャラクター造形に光るものがあります。このまま世界を深堀して見せられるだけでさらに作品の魅力は増していく事でしょう。
最後に『快傑令嬢』ですが、これは初期ライトノベルの雰囲気を持った完成度の高い物語です。昨今そぎ落とされがちな文章表現をそぎ落とさず、時に約束された『分かる者にはわかる』演出は心憎い配慮であり、『ラミア列車』などは読者をニヤリとさせられるでしょう。
※総評にて引用する作品は全て批評希望の物のみとさせていただいております。
今回の企画は中身のある作品が集まり、漆黒レーベル担当者としてもたいへん楽しく読ませていただきました。この企画だけでもそれぞれの作品の中に多様な表現や面白さ、魅力があり、当企画の開催の意義が十分にあったと確信しております。応募された作者さんたちは自信をもって自分の独自性と技量を磨き、大いに楽しく創作に励んでいただければと思います。
それでは、また次回の企画でお会いしましょう。良き創作を!
読了後の感想・評価
ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
*敬称略とさせていただきます。
『アメジストの軌跡』|JEDI_tkms1984
*感想・批評希望
【感想】
魔法的概念のあるSF設定の物語。人物の造詣に説得力があり巧みで、次第に読者をひきつけて読ませる力が強く、特に敵たるペルガモンは『理解しがたいが魅力ある悪役』という意味で、『エピックさを持つ人物』としての描写が十分にできていたと思います。
この人物のほかにも主人公をはじめとする各登場人物の魅力が高く、これが読み続けたいと思わせる引力を強く出していました。
【批評】
世界も物語を動かす上で十分に腑に落ちる設定が為されていましたが、一方でまだ粗削りな部分もあり、まだまだ伸びる作品だと思いました。例えば、タイトルにもなっている『アメジスト色』について、序盤から何らかの伏線を出しておくとより壮大性と引力が増しますし、重要人物の呼称が『重鎮』でしたが、これは形容詞や通称ですから、この部分に物語性の強い独特な呼称や役職を充てるなどすると、この物語のスケールや作り込みによる引力がより増すでしょう。
とはいえ、世界設定や人物の作り込みなどは一定のレベルを超えていますので、これらはあくまで贅沢な可能性の提示に過ぎません。
今後が楽しみな作品と作家さんですので、引き続き応援しています。
序章編を読了。
あらすじの通り、暴政に故郷を焼かれた少年が、反旗を翻した軍属らに支えられて攻め上っていく戦記もの。魔法と科学が融合した世界が舞台である。ここぞという部分の描写、例えば炎が龍となって空間を縦横に走るシーンなどは迫力があり読ませる。
序章では、急流に押し流され自身のバックグラウンドに翻弄されていく主人公が描かれ、彼を支える軍属ふたりにぐっと共感させられる。
文章は、途中、いくぶんかの迷いを感じたが、作家の切磋琢磨と成長の軌跡とも見えて興味深い。まるで、テーマである少年の成長とのシンクロのようである。
主人公のさらなる成長を期待をしつつ、次章を楽しみたい。
序章まで読ませていただきました。魔法と技術が混在する世界で暴君の圧政に苦しむ人々。さまざまな歯車がうまく噛み合い反乱へと至る流れ、主人公シェイドの揺れる感情が丁寧に描かれ、ドキドキしながら読ませていただきました。
残念なのは、シェイドを中心に反乱軍を結成してからの流れがものすごく早くて、気がついたら暴君が倒されていた印象が拭えないところです。少しずつ仲間が増えていく描写が増えたらもっと素敵になると思います。
『異端者幻想譚 -ヘレティックファンタジー-』|月緋ノア
*感想・批評希望
【感想】
一人称視点で展開していく、異種族同士が契れるようになった世界での物語。この物語は感情移入という点で一人称を最大限に生かしており、主人公の優しくもしなやかな強さを持った目線で次第に明らかになっていく世界の秘密は、時に残酷なのにどこかに一縷の希望が残って進み続けます。次第に明らかになる主人公と世界の秘密も決して小さいものではなく、『幻想譚』にふさわしい物語でした。
【批評】
既存種族の設定や演出に、独自名称や設定もセンス良くかみ合っており、世界も良く作り込まれている部類の物語でしょう。ファンタジー作品は世に溢れていますが、単なる感情移入劇に終始しないで、『ファンタジー世界によって現実の業や問題を浮き上がらせ、読者に投げかける』という本来のテーマ性もしっかり保持している作品です。
時折、唐突なセリフやロケーションの変化があり、読み手が少し確認に戸惑うかな? と思われる場面もありますので、そのような部分を少しだけ改稿すれば、より高い完成度に至る印象です。そして、その作業はごくわずかなものでしょう。
今後の創作活動を応援いたします。
幻想的で独特な世界観が特徴的な作品。
ついつい時間を忘れるぐらいに惹き込まれて読み進んでしまった。
一章と続く閑話まで、読了。
広大な背景を持つファンタジー作品。
ヒロインや世界の説明はエピソードに織り込まれ、読者は手探りでストーリー世界に放り込まれる。目の前にある未知を、物語を辿りながら既知に変えていく感覚がたまらない。
作者がどこまで計算しているのか、とても興味深い。
すぐにも(おそらく波瀾万丈の)二章に取りかかりたくなるが、余韻を味わうところまでが醍醐味。せっかく用意された上質の謎である。想像の翼を広げてゆっくりと堪能すべきだろう。
五感をフルに活用した読み方が推奨されていることが自然とわかるのも、面白い。
ヒロインとユニコーン以外のキャラクターの影が、少々薄いのも仕掛けだろうか?
話数はさほど多くない。どこまで魅せてくれるのか、とてもワクワクしている。
片目の色が違うというだけで異端者扱いされた主人公・セナが自身のルーツを探す冒険物語。仲間との関係、セナの成長、世界の秘密。つらい境遇を生きたセナが必死に前を向く姿や、仲間がセナにかける言葉に何度も泣きそうになりました。
ただ序盤、セナの立ち位置がわからず、いきなり物語に放り出されて戸惑いました。0章で記載できる情報はもっと多かったように思います。世界観を説明するタイミングを整理したら、伏線が活きてくる。そうなればもっと素敵になると感じました。
『快傑令嬢』|更科悠乃
*感想・批評希望
【感想】
文章、キャラクター、背景世界、これらが高いレベルでまとまっています。良い意味で『そぎ落とされていない』文章表現と、破綻なく組まれた世界の設定は細部まで手抜かりがなく、そんな世界でしばしば粋だったり、コミカルにやり取りするキャラクターたちの物語は、わりと濃いめの読書体験として楽しめる造りになっており、例えるなら初期ライトノベルの良作に近い雰囲気の作品です。感情移入部分と細やかな設定、ある種の約束された演出に心地よさのある物語です。
【批評】
バランスよくまとまった良作である一方、物語の全体が見やすく、初期ライトノベルにもしばしばあった、『メインテーマのサイズ』が目立ってくるようにもなります。この物語の骨子は『簡単には報われぬ愛の物語』が重要だと思いますが、人物の物語としてはある程度高い完成度である一方、ここまで世界を創れるのなら、メインテーマとこの世界をもう少し根幹で関わらせて物語を大きくし、これを初期から匂わせられたら独自性や壮大性が非常に高くなる可能性があります。
もっとも、これは作者さんの実力がある程度高いから提示できる考え方の一つにすぎませんが、そのような仕掛けも今後の展開や作品に生かせたら、とつい贅沢に期待したくなる作品でした。
今後の創作活動も応援したいと思います。
1話解決型の作品。
魅力的なキャラクターと物語は高評価です。
一章読了。
読者を楽しませることに比重の置かれたエンターテイメント作品。文章および作品の構成がきちんと計算され、無駄なく作り込まれている。全体を通してコミカルなやりとりが楽しく、大いに作家のセンスを感じた。
定番の魔法生物が当たり前に登場しているところは、既存の「ファンタジー」を上手く取り入れることに成功しているし、劇場予告編のように繊細に計算された冒頭の構成の妙が美しい。必要な人物情報をエピソードに織り込む手法などは、お手本としたいほど鮮やかで、力のある作家であることがわかる。
サブに控えるサポート役も万能で魅力的で、誰もが安心して筋を追えるだろう。その安定感ゆえに、実は未来の猫型ロボットを彷彿とした。
とはいえ、序章である。
ファンタジーな共生者らの背景などもフォーカスがあたるのだろうか?
令嬢の恋の行方は、さや当ては、帰ってくる婚約者殿の活躍と主人公との対決やいかに!
今後の展開と乗り越えた先のカタルシスを期待して読みすすめたい。
第一部まで読ませていただきました。快傑令嬢リロットの大立ち回り、伯爵令嬢リルルとエルフのメイド・フィルフィナの絶妙な掛け合いが楽しくて、あっという間に読んでしまいました。
気になったのは、リルルから見た世界はくっきりしていたのですが、そこ以外がわかりづらい部分です。この世界で魔法はどのような立ち位置なのでしょうか? 魔法の道具は市場に出回っていたりしないのでしょうか? 庶民の生活はどのような感じなのでしょうか? 後々判明するのかもしれませんが、怪傑令嬢を捕まえられない理由や身分差の恋がどの程度絶望的なのか、ちょっとわからなかったです。
『彼は、英雄とは呼ばれずに』|トド
*感想希望+批評希望
【感想】
ある男女の関係、特に女性側からの視点に収斂していく物語。特に三章からは顕著に心理描写や関係性が分かりやすくなっていきます。演出としての派手さは控えめですが、だからこそ出来事に対する各人物の機微は丁寧に描かれており、また感情移入しやすい面があります。ファンタジー世界で、淡くも明確に存在する関係性を共感していく物語と言えるでしょう。落ち着いたヒロインとその周囲の女性たちの織り成す日常と非日常、時に頑固なほどに自分の筋を通す主人公の生きざまが良く表現されている物語でした。
【批評】
既に作者さん自身が掴まれたかもしれませんが、後半に行くにつれて、特に三章あたりからなかなかに豊かな人物や心情の描写が多く、とても読ませるものになっていきます。一方、物語初期の人物や情景の説明はしばしば不足していることもあり、読者の感情移入や没入をスムーズに促すのは難しい部分があります。ここが少しもったいないと感じました。
しかし、これはしばしば起きる事で、作者自身が物語世界や人物に慣れていないから起きる事でもあります。例えば三十万字、五十万字など、一定の文字数を超えたあたりで序盤が現状とあまり馴染まないと感じられてくることがありますが、これがベストな改稿のタイミングになる事があります。現状の慣れで少し気になる部分を変えるだけでもだいぶ反響は違ったものになるでしょう。
また、演出面ではもう少し『驚』、『謎』を大事にした方が良いかと思います。分かりやすいのは冒頭の猿の化け物のシーンなどです。例えば、この化け物の得体が知れない、意外性があるだけでも、ストーリーが一時的にミステリーの文脈も持ち、読者を引き付ける力は増します。常に読者の想像を良い意味で裏切る流れを心がけると、作品の魅力が非常に増していく作家さんだと思いました。
今後の創作活動を応援いたします。
正義とは何か。英雄とはどのような存在か。主人公が抱える理想像と、それを不安視する周囲の温かな視線に不思議と心が温まります。特に第三章は英雄とは何か、正義とは何か、救いとは何かを考えさせられました。
『翡翠の一角獣 ドラゴンと女神の剣』|富山 大
*感想希望+批評希望
【感想】
非常に濃厚な作中世界の雰囲気が伝わってくる作品。人物もまたしっかりと描写が為されており、よくできたオープンワールドゲームの世界に入ったような没入感があります。
物語の中で起きる主人公と他の人物との関りもまた良い意味で無骨な男くささ、現代のこの世界とは違う濃い空気感が漂っており、厚みのある人間関係とドラマを感じさせてくれます。世界・人物が良くできた物語だと思います。
【批評】
『異なる世界をドラマチックに旅する経験』という意味で、これほど没入感のある作品は少し珍しいほどです。人物もそこにいるかのようですし、情景描写は街や旅路の埃っぽさ、時に血なまぐさい場面の死と緊張感も漂ってきます。
この『読むオープンワールドゲーム』と言えるような独特な没入感と臨場感は作者が好きなもの、体験したいものを最大限再現しようとした結果であると思われます。また、考えて書くよりも感覚とイメージで一気に書き進めるような、いわば『プロッターよりだいぶパンツァー寄り』と推測できる執筆スタイルがこれに良くかみ合っていた結果だからだろうと推測されます。
既にかなり充実した読書体験を読者に与えられる作品ですが、長く読み込んでいくとしばしば作者が勢いよく書き抜けた部分と、悩んで書いたであろう部分もそのまま読者に伝わってきやすい面があるようです。
十分な地力のある作者さんですので、商業化などを視野に入れられる場合は、巻数と相性の良い文字数(およそ十二万以上から二十万強程度までの範囲)で章を区切り、おそらくご自分でも流れ的に気になるところを整えていけば、より素晴らしい作品として纏まり上がるものと思います。
今後の創作活動を応援いたします。
時代を彷彿させるファンタジー作品。
読んで目を閉じれば情景が思い浮かぶ程の文章力に脱帽。
第一章第一部まで読ませていただきました。ものすごく丁寧に作り込まれた世界の中でジェイドやバルボアなどの登場人物が生き生きと動き、歴史小説を読んでいるかのような感覚を抱きました。ここからどのように物語が動くのか予想できなくてワクワクします。
『マリアベルの迷宮』|やみゆな
*感想・批評希望
【感想】
耽美、よりも重厚な芯のある世界観と人物たちで繰り広げられていく、奥深い男女の愛憎と政治の絡む復讐劇。伝統的な歌劇のように組まれた世界で展開していく物語は、特に『迷宮』が展開してから非常に色濃さを増し、好きな人にはたまらない愛憎と自問、内面的な感情のやり取りが展開し、厄介なヒロインの魅力と人間性に、典型的な貴族の強者である主人公が大いに翻弄されていく物語で、実に色鮮やかでした。
【批評】
必要なシーンに必要なオブジェクトが揃っているのは当たり前のようでいてなかなかできない事です。一方で、それらオブジェクトはしばしば登場人物たちとは切り離されていたり、オブジェクトの『個性』には言及されない事が多いです。
この為、地の文での描写が登場人物たちの言動と無関係な事が多いため、ここを繋げるとより深みが増す可能性が高いです。例えば景色や建物なら登場人物たちに特徴を言及させる、少し変わった特徴を設定して独特な様式を強調する、などでしょうか。シーンの地の文に読者の目を止めるか、そうでない場合は削る、という考え方ですね。
これだけでよりメリハリがつくものと思います。
また、マリアベルやルトなどは登場時から理解しやすい人物である一方、肝心のレグルスは『迷宮』シーンになる以前の人物描写がやや弱く、結果として迷宮での戸惑いの仕掛けでマリアベルだけが強くなりすぎているかもしれません。
この部分を調整されるとより読者をひきつけるかな、とも感じました。しかしこれらは、『あえて言うなら』程度の物でもあります。今後の創作活動を応援したいと思います。
第3夜まで読ませていただきました。不遇な立場にある第三皇子レグルスと、唯一の生き残りの息女マリアベルとの物語。マリアベルの凛々しいまでの美しさ、強さ、気高さがとても好きです。
少し勿体無いと思ったのはレグルスの描き方です。第2夜でのレグルスは負の側面の描写が強烈で、魅力に翳りが出てしまっています。一歩ほど後ろに下がって描いていただけたら、ルトやロランが敬愛する彼の良さも読者に伝わりやすいのではないかな、と思いました。
『水の蜂』|寺音
*感想希望+批評希望
【感想】
情景、人物、世界設定等、高いレベルでバランスが取れており、また独自性も高く、読んでいてとても楽しめた物語でした。登場人物はレギュラー格でなくともしっかり魅力がある一人の人物として表現されており印象が強く、また物語の舞台となっている砂漠地方の各ロケーションはイメージが浮かぶようです。作中で大きなテーマと秘密が常に提示されているので物語を追いやすいのも良い点でしょう。とても高水準な作品だと思います。
【批評】
今回の企画の中でも、特に高いレベルで安定した作品でした。文章にほとんど粗が見えず、また良い意味で癖がありません。これが、この物語全般に漂うそれこそ水をテーマにした透明度の高い雰囲気に良く作用しています。登場人物や作中世界に好感を持たれやすいという意味です。
また、ライトノベルにありがちなキャラクターの末端肥大的な造形があまり為されていないため、一般小説や中高生向け児童書としてもパッケージできそうな安定感があります。
何かさらにこの物語を強めたい場合は、建造物とロケーションの描写でしょう。各シーンや人物の描写が秀逸な分、しばしば建造物の描写が十分な箇所と、もう少しあっても良いと感じられる箇所があります。この物語の描写力ならこのような部分での説明が多くても歓迎されることが多いはずですので、その部分をより磨かれると良いかもしれません。作中世界の文化を反映した独自性を出すのも良いでしょう。
良い意味で提言的なものはあまり思い当たらないのですが、この物語をどのようなジャンルに寄せるのかまだ明確に決めていない場合は、現時点での良い意味での癖の無さから、完結とその後のジャンル選択を考えて今後の演出や設定を考える場合の一助とするのは有りだと思います。とはいえ、現状のままでも十分なレベルではあります。
今後の創作活動を応援いたします。
魅力的な人物が織りなすファンタジー作品。
第一章読了。
水を失った砂漠の国を舞台に、人々の暮らしが息づくファンタジー作品。鮮やかに紡がれる情景は、読者を作品世界に没頭させる力強さを感じる。
何よりも、いずこからか借用した世界観を採用することなく、歴史・文化・宗教・民族を構築している意欲作であり、今回の選評企画の意図にすこぶるマッチしている。
一章では、水を巡る諸問題と教会の意義が、胸おどるアクション劇の中に上手く埋め込まれており、まさにものがたりの序章としての役割を果たす一方で、主要キャラクターたちの謎は依然残されており、彼らの行く手に待ち受けるさらなる展開を予期させる。
二章以降では、三人の登場人物(そういえば主役はだれだろう)の個性のきらめきと目眩く冒険活劇を求めて読みすすめたい。
かつて存在した種族「水の蜂」。彼らが姿を消したのはどうしてなのか。主人公の一人であるチャッタの視点から見る「国が抱える暗部」が垣間見える展開にドキドキします。主人公と共に冒険する仲間たちが個性豊かで、彼らとの掛け合いもとても楽しいです。
『冥王と侍』佐藤 雪之丞
*感想希望+批評希望
【感想】
文章がとても読みやすく、また侍である十兵衛と、冥王ことハーデスのバディがとても秀逸であり、これをある程度しっかり設定された世界で『なぜ死を選ぶのか?』という冒頭からのテーマと重ねて長い旅の物語にしている構成も良くできています。
作中では重兵衛の侍としてのストイックさが戦闘でのシリアスさと爽快感に、ハーデスの知識が時に秀逸なツッコミになる掛け合いを面白くしており、飽きさせない長編として完成度が高い物語でした。
【批評】
もともと完成度高くて面白い作品であるうえに、後半になるにつれて世界の作り込みも良く見えてきます。作者さんの執筆力の上昇と、『作者の自作品への慣れ』がさらに上昇していくのが読み手にも顕著に感じられる作品ですので、逆に作者さん自身が『一定の文字数を超えた頃に初期の粗が見えてくる』という流れになっているかもしれません。
この物語はタイトルがシンプルなぶん、『web小説に良くある侍が出てくる異世界ファンタジーかな?』と思わせておいて、その実は『硬骨な侍が主人公となる、死生観を追うしっかりしたファンタジー』であります。よって、最序盤でこの違いを見せるか匂わせられれば初動からだいぶ違ってくることが期待できます。これに有効なのが世界の作り込みを示唆する事です。
現在、ある程度読んで興味を持てた読者が、のちの章タイトルやサブタイトルからこの物語の世界の作り込みを感じ取れるようになっていますが(つまり、サブタイトル等にも世界の作り込みを感じさせるセンスがあります)、これを最序盤からでももう少し出せれば、さらに評価が高まる可能性が高いという事です。
併せて、ごく初期の主人公と冥王のやり取りはもう少し短く洗練しても良いかもしれません。
キャラクターの魅力や戦闘などは申し分ないので、高い総合力をもっと高められたら素晴らしいと思います。
今後の創作活動を応援いたします。
一章読了。
魔王と人間が争う地に降り立った。戦国の世で切腹し果てるはずだった男が、死を司る冥王に拾い上げられ異世界転移。
スピード感あふれるエンターテイメント作品、その主要キャラクターの魅力に押される第一章を読了した。
一章では、主要人物の背景および世界観がエピソードに織り込まれて語られる。その手際が鮮やかだ。エピソード自体も、初手から魔王軍の幹部クラスが登場し、一気に話を盛り上げて読者を釘付けにする。鮮やかである。
作品はカクヨムに公開されているものを読んだが、この投稿サイトにおいてはキャッチフレーズが目を引く。読者レビューもこれに寄せられることが多い。そこに少々のもったいなさを感じた。
例えば、男性読者へのアプローチも考慮してピリリと刺激的に煽ってみるのはどうだろう。
第一章まで読ませていただきました。「死」という難しいテーマを扱っているにも関わらず、軽やかに物語が進行しつつ、適宜考えさせられる展開が面白かったです。十兵衛の価値観をハーデスは最後受け入れられるのか、興味あります。
『ラミア17改 〜初めての人間牧場生活〜』|猿蟹月仙
*感想希望+批評希望
【感想】
一人称視点で主人公がラミアの女性の物語。終始コミカルですが『人間牧場』こと街の描写や人物、細部の設定は手慣れた雰囲気で破綻なく組みあがっており、独自の設定部分も説明が分かりやすく、主人公のシュルルの親しみやすい性格と一人称の説明や独白と相まって、人物との絡みやイベントもスムーズに楽しみやすい物語でした。
珍しい種族と立ち位置の女性主人公でここまで構成できているのは、なかなかに難易度の高い事だと思いますが、それを破綻なく物語として読ませています。
【批評】
とても手慣れた世界設定とキャラクター造形で軽快に物語が進んでいきます。基本的にはほとんど『好きな人だけついて来ればよい』という作品として出来上がっていますが、ここからさらに読者の吸引力を増やすとするなら、通常の作品なら序盤での共感性や、または気になる動機を少し早い段階から見せる事でしょうか? しかし、この物語の独特な緩いコミカルさは、主人公兼ヒロインのマイナーな種族設定と相まって、そんなものが無いからこそ楽しめるものという性質が多分にあります。となりますと、残るは『環境の意外性・魅力』となります。
例えば、これはあくまで可能性の示唆に過ぎませんが、主人公とその姉妹の特殊性に負けない登場人物たちと、また環境を意外性の高いものにして行けばこの物語独特の魅力はより増すと思います。現状でも安定した物語ではありますが、今のまま『味付け』をより際立たせたい場合はそのような方向も有りでしょう。
今後の創作活動を応援いたします。
異世界ファンタジーでも明るい作品。
主人公目線で物語が展開していき主人公の語りで世界観を説明していく。
第18話まで読みました。主人公のラミア・シュルルの視点から語られる異世界物語。シュルルの語り口が軽妙で、人間である私たちからすると首をかしげてしまうような価値観が描写されているのに、スルスルと読み進めることができました。
『竜の階』|ムルコラカ
*感想・批評希望
【感想】
とても良くできた物語で、まず世界の作り込みが非常にしっかりしており、文章も高いレベルで安定しています。現代社会から異世界に転移した少年、という設定に一人称が良く合致していますが、世界の作り込みと人物の描写がともにとても豊かなため、『ジュブナイルのファンタジー小説』ではなく『ファンタジー小説』として読める物語でした。
良質なファンタジーはその世界の描写だけでもしばしば楽しめますが、この作品もそのような要素があります。
【批評】
冒頭部分が少しだけ場面転換や情景が分かりづらいかな? というシーンがありますので、ここは場所を明示したり、視点の主体者や立場などをシンプルに強く描写してもいいかもしれません。これだけで初動が大きく変わる可能性があります。
また、豊かな作中世界の説明に関して、後書き部分に補足がありますが、これはフレーバーテキストにとどめた方が良いでしょう。フレーバーテキストの適正文章量は『視線を移さなくて良い程度』がベストです。このため三行~多くても五行程度にした方が効果が高いと思われます。しかしもともと完成度の高い作品ですので、これら指摘はそこまで気にかける必要もないかとは思います。贅沢な希望と言ったレベルです。
今後の創作活動を応援いたします。
作り込まれた世界と設定、何より物語を補助するTIPSが秀逸で良くできている作品。
惹き込まれるものがある。
第一章まで読ませていただきました。竜が出現してからの緊張感にドキドキし、最後の場面は泣いてしまいました。物語前半、各話下部にある説明が物語をより重厚にしていて、世界の探索が楽しみになりました。
残念なのが、物語冒頭主人公ナオルの性格がよくわからない部分です。サーシャと出会ってからのナオルは自主的に行動を見せて応援したくなったのですが、それまでが掴み所なかったです。ナオルが日本でどのように人間関係を築いていたのか、どのような価値観で行動する子なのか。ここを補強する場面が物語冒頭にあったらと思います。
今後の予定
今回、先着10作品の枠が早々に埋まりました。
ご協力くださり、誠にありがとうございます。
今回応募された作品の内、『彼は、英雄とは呼ばれずに』『翡翠の一角獣 ドラゴンと女神の剣』『水の蜂』『冥王と侍』『ラミア17改 〜初めての人間牧場生活〜』は批評の有無について言及がなかったため、感想のみとさせていただいています。
もし批評をご希望の場合、12月15日までに名興文庫公式Twitter「【第01回】漆黒の作品選評企画の総括」のブログ記事ツイートに作者様からコメントを頂けたら対応したいと思います。
参加できなかった方は申し訳ありませんでした。
またの機会をお待ちいただければ幸いです。
【令和4年12月2日 追記】
作者様から希望のあった作品について、批評を追記いたしました。
この度は企画にご参加くださり、ありがとうございました!
皆様の益々のご活躍をお祈りしています。